会長挨拶

  平成21年10月14日(水)から16日(金)までの3日間、東京新宿の京王プラザホテルと新宿NSビルにおきまして、(社)日本脳神経外科学会第68回学術総会を開催させていただきます。そのメインテーマを‘分化と統合ー我国の脳神経外科のあり方ー’とさせていただきました。
 多くの学問領域と同様、脳神経外科学の分野も学術や技術の発展とともに広くかつ深く分化しながら発展してまいりました。我国では、脳神経外科医の守備範囲はきわめて広く、神経系統の疾病の救急・非救急対応、神経学的診断や画像診断、術前術後管理から手術的あるいは非手術的治療、リハビリ・化学療法・定位的放射線療法や外来での長期予後管理までをカバーしております。更には、頭痛・めまいなどの非手術的疾病の治療や脳ドックなどの予防医学も担当しております。すなわち、我国における脳神経外科は‘外科’という名称はついておりますが、臨床神経分野全般をカバーしており、従って脳神経外科は内科などと同様、基本的診療領域に属しております。特徴の第2は、欧米のごとく救急対応、診断、治療、長期管理などに診療領域が分業化しておらず、神経疾患の患者を系統的に診療しているという点であります。これは神経疾患を有する患者から見れば、診断から治療、そして長期予後に及ぶ診療体系における責任が明確であるという面から大きな意義があると思われます。
 これらの理由により、脳神経外科を手術治療に特化した高度な専門領域(2階部分あるいは3階部分)とだけ考えれば、今の脳神経外科医の数は多すぎるという話になりますが、臨床神経分野の1階部分を含めて2階、3階部分も担当していることを考慮すると、まだまだ不足しているという判断になります。実際、世界の先進国の中で、神経内科医より脳神経外科医の数が多いのは我国だけであります。これは我国における両診療科あるいは両学問分野の発展の歴史に由来するものであり、直ちにGlobal standardに是正できるものでもなく、また必ずしもそうする必要は無いものと思われます。むしろ、我国の神経領域における診療のシステムを他の国々のモデルとして提唱していけるのではないかとも考えております。
 一方、脳神経外科の中にもいわゆるSubspecialityの分野が発展してまいりまして、脳神経外科医が参加する学会も枚挙に暇が無い状況になっております。目下、脳神経外科学会傘
下の中小の学会の位置づけを議論し、一部は整理、統合しようとする動きが出てまいりました。今回の学術総会におきましても、我国の脳神経外科医のIdentityとは何かを確認する議論をしたいと考えております。すなわち、我国の脳神経外科専門医としてどこまでの知識と技術が求められるのかという根源的な議論であります。その目的を達成する一つの手段として、脳神経外科学会直系の関連10学会の今期会長(あるいは理事長)にそれぞれの学会における最も重要でホットなトピックを講演して頂くことにいたしました。これは近い将来の専門医更新制度における講習会に発展していくのではないかと予想しております。更には、各シンポジウムの最後には
座長にそのシンポジウムの意義、特に一般会員の視点からの意義を5−10分程度でまとめてもらうことにしております。
参加している会員には、我国の脳神経外科医として身につけておくべき、いわば‘Take home messages’を確認し、参加者全員にとって意義の深い会合にしたいと思っております。
 文化講演は評論家の鳥越俊太郎氏に、特別講演は日本学術会議会長の金澤一郎先生並びに国際電気通信基礎技術研究所(ATR)所長の川人光男先生に、また教育講演は東京医科歯科大学大学院脳神経病態学分野教授の水澤英洋先生と日本医科大学大学院侵襲生体管理学(救急医学)教授の横田裕行先生にお願いしております。今年は経蝶形骨下垂体手術のプロトタイプが確立してほぼ100年ということで‘The Centennial of Transsphenoidal Surgery’という特別企画を組みまして、Fahlbusch先生に基調講演をお願いするとともに下垂体外科の現況をエキスパートに講演して頂くことにいたしました。もう一つの特別企画は、学術委員会からの提案で‘我国における医薬品・医療機器の開発と導入の現況’というテーマで、PMDA理事長の近藤達也先生に基調講演をお願いしております。学術プログラムの骨格としては、30課題のシンポジウムを企画するとともに、ご応募頂きました演題の中から1,734題を採択し、審査委員の評価に基づき784題の口演と950題のデジタルポスター発表に分けさせて頂きました。更に、各種セ
ミナー、機器・企業展示も例年通り開催いたします。
 今回初めての企画と致しまして、学会2日目(10月15日)に、ニューロナースとのジョイントセッションを設けました。チーム医療という観点から、脳神経外科医療に係る看護師と主として患者管理に関する議論と共に理解を深めたいと考えております。できればこの企画は次回以降も継続して頂きたいと思っております。学会の3日目(10月16日)には、第6回日独脳神経外科学術会議を開催いたしますので、ドイツにゆかりのある先生方は是非とも積極的にご参加をお願い申し上げます。なお、学会の翌日(10月17日)には、隣の新宿NSビルにおきまして市民公開講座を予定しております。

 以上、我国の脳神経外科が限りなく発展していく中で一度足下をしっかり見つめ、基盤を固めてから更なる展開をしていこうということが本総会の基本的な理念であります。皆様方の積極的なご参加をお待ち申し上げております。

社団法人日本脳神経外科学会 第68回学術総会
会長   寺本  明